薄毛を実感するきっかけは、人それぞれだ。
鏡の中の違和感かもしれないし、美容室でのひと言かもしれない。
俺の場合は、職場の何気ないいじりから始まった。
ただの軽い疑惑。
笑って流せるレベルの話だった。
まさかあのやり取りが、
10年以上も俺の人生で主役級の問題になるなんて、
このときは1ミリも思っていなかった。
これは、そのすべての始まりの話だ。
25歳、「あれ?」は鏡より先にやってきた
俺が薄毛に気づいたのは、鏡じゃなかった。
ドライヤー中でも、洗面所でもない。
きっかけは、職場の一言だった。
ドフサ先輩のひと言
7つ年上の先輩。
いじり上手で、仕事もできる兄貴タイプ。
そして何より――
絵に描いたようなドフサ。
ある日、いつもの雑談中にニヤッとしながら言った。
「お前、ちょっときてない?」
「え?」
「いや、生え際。ちょっと後退してね?」
周りはクスクス笑っている。
軽いノリ。
本気ゼロの空気。
笑いながら刺された最初の一撃
その場の俺は笑った。
「やめてくださいよ〜。俺まだ25っすよ?」
ノリは完璧。
返しも自然。
空気も壊さない。
でも――
心の奥に、何かが残った。
その場では否定、心の中ではザワつき
(いやいや、全然ハゲてないけど?)
(俺に言ってる?)
本気でそう思っていた。
自覚なんて、1ミリもなかったから。
でも一度“言われる”と、
言葉は頭から離れない。
俺はまだハゲてない、はずだった
当時の俺は、本気で思っていた。
俺はまだハゲていない。
25歳だぞ?
早すぎるだろ。
自覚ゼロという最強の防御
自覚がないって、最強だ。
不安も焦りもない。
だから余裕で笑える。
ハゲネタを自分から振ることすらあった。
だって、俺は“違う側”だと思っていたから。
ハゲネタを自分から振る余裕
「いや俺ちょっとやばいかもなんすよ〜」
なんて冗談で言いながら、内心は安全圏。
“ハゲてないハゲキャラ”。
それが当時の俺のポジションだった。
「25歳でハゲはない」という思い込み
周りにも本気で気にしているやつはいなかった。
だから安心していた。
みんな大丈夫=俺も大丈夫。
この思い込みが、のちに効いてくる。
言われた言葉は、家までついてくる
その日の夜。
なんとなく鏡を見た。
前髪を、上げてみる。
何気なく上げた前髪
深い意味はなかった。
ただ確認しただけ。
「別に普通じゃん」
そう言い聞かせるために。
初めての「あれ?」
……あれ?
なんか、広くないか?
ほんの少しだけ。
本当に微妙な違い。
でもゼロじゃない違和感。
認めないという選択
いや、気のせい。
光の加減。
角度の問題。
そうやって、その日は終わらせた。
この“認めない”という選択が、
俺の1年間を作ることになる。
25歳で本気だった男
ただ一人だけ、違うやつがいた。
同い年の友達だ。
俺たちは笑っていた
彼は25歳で、すでに“対策モード”。
「気にしすぎだろ」
「まだ全然いけるって」
俺たちは笑っていた。
本気で。
彼は止まらなかった
でも彼は止まらなかった。
一年後に会ったときには、リアップを使い始めていた。
俺たちが飲み会でハゲネタを回している間に。
10年後、残酷な答え合わせ
現在36歳。
俺は立派なハゲ。
彼は相変わらずドフサ。
あのとき笑っていた側が、
いま笑えない側になった。
“ハゲてないハゲキャラ”という逃げ道
このあと約1年間。
俺は“自覚なし”で生きていく。
いじられは武器だと思っていた
いじられるのは嫌いじゃなかった。
むしろポジションとしては悪くない。
だから笑っていた。
余裕の顔で。
本当はまだ余裕があった
本気で困っていなかった。
まだ戻れると思っていた。
だから、動かなかった。
でも、現実は静かに進んでいた
AGAは叫ばない。
静かに進む。
そしてある日、
「あれ?」は「マジか」に変わる。
あの一言が、10年の始まりだった
今振り返ると、あの先輩のひと言。
あれが最初の一撃だった。
他人の視線で知る現実
人は、自分より先に他人が気づく。
自分では見えていなかった変化。
他人の視線が、現実を突きつける。
笑いの奥にあった違和感
笑っていた。
でも、少しだけザワついていた。
あの違和感は、間違っていなかった。
まだ気づいていなかった「物語のスタート」
25歳。
まだ本気じゃない。
まだ焦っていない。
でも、確実に始まっていた。
俺の、10年が。
次回――
「いじられキャラになった理由と本音」。
笑っていたはずなのに、
少しずつ削れていった話。



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